私が新宿の紀伊國屋書店でアルバイトを始めた時、新宿の伊勢丹百貨店は3階以上がアメリカ軍の宿舎になっていた。今のアドホックビルのあるところから伊勢丹の駐車場はアメリカ軍のモータープールで、ジープやトラックが数十台並んでいた。
伊勢丹の売場は地下1階、地上1階、2階の3フロアーだけであったが、商品の乏しい時代であるから三越も伊勢丹も大いに賑っていた。
東京だけではなく日本全国敗戦後の混乱から復興がこれから始ると云う混乱期であった。戦勝国側は日本全国を占領していて、めぼしい建物が占領軍の宿舎として接収されていたのである。
当時の日本国民はやっと終った戦争に生き残り、戦時中できなかった事を夢中になってやり始め出した。その時、百貨店でのショッピング、映画を観る事、本を読む事が自由に出来るようになって平和のありがたさを味う事が出来る時代になったのである。読みたい時に本を自由に読む事は、人間の本能に基く大事な事なのだと思う。
私が紀伊國屋のアルバイトで本屋の仕事が意外に面白く奥が深いと思うようになった動機の一つは、日本語の全くわからない外国人が来店した時で、英語のわからない店の人にこのアメリカ兵の希望は何かを伝える事ができると、アメリカ兵も店員も非常に喜んでくれて、皆の役に立ち、本も売れる事に気がついたからだ。
私の英語は極めて貧弱だったが、高校時代に一日15分聞いていたNHKラジオ「松本亨のラジオ英会話」が結構役立った。
伊勢丹を宿舎にしていたクリスチャンのアメリカ兵 Mr. Robert M. Boultonとも親しくなり、彼は私をいつも三宅坂にあったチャペルセンターに連れて行ってくれた。彼は私に、神の教えよりも、恵れた人は恵れてない人に親切にして、困っている人にはできる範囲で親切と協力、援助をすべきと日常の実践で教えてくれた。彼はアメリカの国の素晴らしさと、他人の為に盡す生き方を伝えてくれて、私の忘れられない人となった。
今年、秋尾沙戸子著「ワシントンハイツ」新潮社が出版され、第58回日本エッセイストクラブ賞を受賞した。
ワシントンハイツもこの時代に代々木公園にあった米軍住居であり、この時代の事がよく描かれていた。
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