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7月23日に発売された静山社『ハリー・ポッターと死の秘宝』は、全体的に好調な仕上りを見せているようだ。まだ結果をまとめられる段階ではないが、1999年12月の日本版第一巻発売以来、約9年にわたって出版界に巻き起った“ハリポタ旋風”は、いちおう終息することになる。同シリーズが出版界に与えてくれたものは様ざまであるが、今回は書店の状況や市場のデータを中心にまとめた。
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 99年ハリー・ポッター発売前のハローウィンパーティ
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- 発売5日間で7割消化 - |
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“初動好調”の中身
発売間もなくから「仕上りが良い」という声はあちこちからあがった。「7月27日までの5日間で市場の消化率は約7割」「前の6巻と比べて約1割良い」といったトーハン、日販のPOSデータ調査は本紙7月31日号で伝えた。その後、発売12日で8割、約4週間を経た8月19日には90%超と見られている。
各書店チェーンの初動をいくつか紹介する。
紀伊國屋書店=初回仕入5万7000冊、6日間の実売3万9045冊(69.1%)、明屋書店グループ=仕入1万6656冊、5日間の実売1万0869冊(65.3%)。三洋書店=仕入2万冊、5日間の実売1万4390冊(72%)。TSUTAYA=仕入約15万2000冊。5日間の販売11万7195冊(77%。店頭のみの数字)。
ほかにも八重洲ブックセンターが発売5日間で65.2%など、全体にはほぼ同様に実績が多く、とくに五巻のときによくあがった「初回を多くとりすぎた」という声は、現時点で聞こえてこない。
もうひとつの特徴として、こうした大手チェーンは販売「冊数」も六巻より伸びているケースが多い。丸善も六巻より1~2割増の初動で推移したという。
冊数の伸びで1番目立つのはアマゾンジャパン。同社はこれまでの四、五、七巻の発売前日までの予約部数のみを公表しているが、四巻=3万2000冊、五巻=8万8000冊、七巻=9万5000冊と推移した(六巻は五巻をやや下回ったという)。
静山社によると、七巻の初版180万部(その後、5万部の増刷を決定)に対し、06年に発売した六巻の初版は200万部(現在は212万部)。全体は1割減なのにこれらの書店の冊数が伸びているということは、一方で大きく冊数を落とした書店があることになる。大手やネットの寡占化が進んだばかりではなく、落とした大手、伸ばした中小もあったようだ。
ふたば書房(京都)は、発売12日間でチェーン合計2300冊を販売。六巻の同時点比で16%増という。同社は今回、地域を越えた書店15社と予約者進呈用のエコバックを共同制作するなど拡販に力を入れたが、取り組んだのはサービス面の強化だけではない。
四巻(02年10月発売)が買切となったのを機に、予約受注をはじめる発売3ヶ月前から発売6ヵ月後まで、予約数や売上げデータを丹念にとって分析し、次回の仕入れに活かしてきたという。
「静山社の全体の発行部数や取次のデータなどとつきあわせて判断していった。六巻の発売6ヵ月後の仕上がりは予測に対し1%以下の誤差。四巻五巻も、いわゆる余剰在庫はでませんでした。完璧な予測をたてるのはもちろん不可能だし、さんざん計算機をたたいた結果、七巻の初回部数を六巻より多く仕入れたのは勘でしたが」(洞本昌哉社長)。
同社はあくまでも一例。だが成果をあげた書店は、こうした意識の部分で明らかに違いがあった。
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- 大ヒット本と“向き合う” - |
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四巻から始まった大きな変化
話はそれるが、本紙は、1999年11月4日号で日本語版第一巻が翌月に発売されることを報じて以降、海外版の話題や1段見出しのいわゆるベタ記事まで含めると、「ハリー・ポッター」を90回とりあげている。ひとつの商品を、これだけ数多く記事にしたケースは他にない。
とくに記事が増えたのは、買切制をはじめた四巻の発売された04年である。買切かつ条件が変わらないことから日書連を中心に不満があり、静山社は五巻から初回分につき5%の返品枠、六巻から40円の報奨金を設定した。買切制導入について関係者たちに聞くと、通常の委託だった一~三巻では例によって配本の偏重が起き、小書店に本が入らなかったことの不満があがったことから静山社側が取次各社に相談、全書店に希望通り送品するには買切しかないと提案を受けて採用したものだという。
四巻、五巻では過剰仕入れ、余剰在庫の問題も注目された。また、当時は記事になっていないものの、余剰在庫を得意客に無料で進呈したり、来店客向けの景品にした書店もあったようだ。
四巻の発売された02年10月当時、往来堂書店(東京・千駄木)の笈入建志店長は、本紙最終面「レジから檄」に「ハリポタが書店にもたらしたもの」と題したコラムに書いている。「私のような小書店でも難なく注文できるのは大きい」「店の大きさや場所の良し悪しだけではない。書店の間の新たな競争がようやく始まったことを告げている」などと述べ、そのリスクや読者獲得法を考察した。
「ハリポタの販売を通じて、可能な限りリスクを排除すれば、買切であっても思い切った数字を仕入れられることがわかった。この経験は今後につながると思う」という笈入氏は、その「リスク排除」に次の三つが欠かせないと話す。
1.予約受注に自店なりに全力で取り組む。
2.データを積み上げ、分析し、売上予測をたてる。
3.他書店と組んで共同仕入れをする。
1と2は、前述のふたば書房と共通する。3が同店の加盟するNET21を指していることはいうまでもない。「今回も、途中で足りなくなって本部を通じて補充している。NET21は、ほぼ全店で3ケタを売っていますよ」(8月1日時点)。そのうえで、「もちろん、正味は下がったほうがありがたい。こちらがとっているリスクを考慮してほしいという思いがあります」と語った。
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 02年 第四巻「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」発売日
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- 小学館は選択制 - 11月発刊医学事典
「ハリー・ポッター」に限らず、どの書店でも売れるようなヒット本とどう向き合うかは、当然だが各書店が方針に基づき判断することである。それが買切であればなおさらのことだ。ハリポタをしゃかりきになって売る必要のない書店も、たしかにあるだろう。
ただ、「誰もが望んだ数を仕入れられる」という、本来は当然のことが実現したとき、ふたば書房や往来堂書店(NET21)のように、能動的に取り組んで成果をあげ、ノウハウの蓄積につなげた書店と、それをできなかった書店との差は、この数年で大きく開いたのではないか。
洞本氏は「全体としては今後も委託中心が良いと思うが、最初からある程度の部数を見込める商品は買切にしてほしい。NHKテキストやデアゴスティーニのパートワークなども良いのでは。前にも話したが、書店への還元方法は正味下げや報奨金に限らず、たとえば献本でもかまわない。我われはそれを金に換えるプロなのだから」と話している。
今年11月には、小学館が買切と委託を選択できる方式で家庭用医学事典を発売する。これは「ハリー・ポッター」シリーズ最終巻につづくひとつの川の流れ、なかなか根づかなかった買切販売は、いよいよ本格化する可能性が高い。
何より、返品増が死活問題である取次各社が後押しするだろう。
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- 静山社関連本 総発行額667億円 - |
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低迷する書籍市場牽引 データ収集と徹底分析・・・ 明暗分けた書店の"意識の差"
プラスのジンクス
667億1750万円-。これは静山社の「ハリー・ポッター」関連本15点(本作単行本一~七巻、携帯版一~五巻、『ハリー・ポッター裏話』『ホグワーツ指定教科書I』『同II』の総発行金額を表した数字だ(本体価格ベース)。主力である単行本の一~七巻だけで651億2300万円。まさに史上空前のビッグシリーズだったことがわかる。とくに四巻以降は、上下巻セットで3800~4000円と高額だったにも関わらず、多くの読者を引き連れつづけたことが大きかった(タイトル別発行部数などは別表の通り)。
期間限定のチャリティー本であり、販売に応じた書店への直取引となった『ホグワーツ』の2点を除き、これらは取次ルートを介して流通した。出版科学研究所が毎年まとめている取次ルートの出版物販売金額(推定)は、1997年から連続マイナスとなっているが、唯一プラスに転じた2004年は、書籍が前年比4.1%(約375億円)増と市場を牽引した。この年は第五巻が発売され、同書だけで110億以上。ほかにも『世界の中心で愛をさけぶ』などの大ヒットがあった。
市場全体への影響力がさらに顕著だったのは02年。書籍は0.4%(34億円)の微増だったが、350万部の第四巻に加え、01年来の映画公開もあって既刊の一~三巻計360万部を発行。合わせて710万部・210億円が投入された。書籍は06年もプラスで、このときは第六巻が発売。要因は同シリーズだけではないが「ハリー・ポッター最新刊の出る年の書籍はプラス」が近年の傾向だった。もっとも今は難しそうだ。
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 04年 第五巻「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」発売日
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 04年 第五巻「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」宣伝用バス
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二次市場となる新古書店のブックオフにも状況を開いた。本の単品管理をしていないため具体的なデータはないが、「現在一~三巻は買取が販売を上回り、滞留しているため状態の良い本も105円で販売」「四~五巻も買取が多いが、105円まで下げなくても売れていく」「六巻は買取が少なく、すぐに売れてなくなる。マニュアルにそった買取価格を提示すると売っていただけないことも多い」(広報)としている。
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